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[Y07] 大和荘(手土産)

 平日の昼間、まだ夢から覚めない時生の部屋に、少女が一人入ってくる。この部屋は鍵が壊れているため、自由に出入りが可能だ。少女は、テレビの前の机の上を適当に片付け、買ってきたパンをその机の上に置いた。そしてその近くのわずかなスペースにランドセルを置くと、勢いよくベッドに飛び乗った。
「っ痛ってぇ!!」
「おはよー。いつまで寝てんのよぉ!」
 時生は布団の中から少女を蹴飛ばし、ベッドの隅で再び丸くなる。ベッドから追いやられた少女は、一気に布団を剥がした。
「さみぃよ! ふざけんなよ」
「もう、昼になっちゃうよ」
 強引に起こされた時生は、床に転がっている時計を拾い上げる。確かに昼だ。12時半になろうとしている。
「パン、買ってきたから、一緒に食べよ」
「ん・・・。んん? 未来(みく)、学校は?」
「ふけちゃった」
 未来は一言だけそう言うと、机の上にパンを並べ、小さな台所へコップを取りに行った。時生はどうにか上半身を起こし、ベッドの横に腰掛ける。リモコンでテレビをつけると、確かに昼の番組が映った。テレビと、赤いランドセルと、机の上のパン、そして台所で牛乳を注いでいる未来に目を向けると、未来が振り向き、笑った。
「だって学校、つまんないんだもん」
「小学校から、サボんなよ」
 パンに手を伸ばし、一口頬張る。未来が持ってきてくれた牛乳で、口の中のパンを一気に飲み込んだ。
「いくら?」
 未来はパンをかじりながら、手を振って「いらない」と告げる。時生は立ち上がり、テレビの上の財布を取り出し、小銭を机の上に置いた。
「だから、いらないよ」
「んなわけねーだろ。小学生に払わせるわけにはいかねーんだよ」
「これは、お土産なんだから、素直に受け取りなさい!」
「……早く金、しまえよ」
 未来はありがとう、と言いながら、お金をポケットの中にしまった。
 しばらく二人でテレビを見ながらパンを食べていると、未来は急に思い出したかのように、ランドセルの中に手を突っ込み、かき回し始めた。
「そうだ、お兄ちゃん、もう一つ、手土産持ってきたんだった。忘れてたよ」
 それは、茶色い封筒に入っていた。未来から手渡され、時生が封筒の中から取り出したものは、ライブイベントのチケットであった。聞いたことのないライブハウス、来週の日曜日、夜7時から。それも、2枚。
 未来にライブ。意外な手土産。
「それ、お父さんがいっぱい買っちゃったから、あげるよ」
「随分、未来の親父、ロック趣味なんだな」
「んっとね、お父さんの店の男の子が、そのライブに出るんだって。お父さん、人がいいから、ついつい何枚も買ってあげちゃってさ。だから、学校の友達でお兄さんがいる子に、渡してきなさいって、お父さんが」
 もう一度チケットを眺める。参加アーティスト名は書かれていなかったが、未来の父親の知り合いは、2番目に演奏する予定の、『カイ』というバンドらしい。名前は聞いたことないが、未来が言うには、なかなかいい歌を歌うらしい。もちろん、未来が父親から聞いた話であって、未来自身が聞いたわけではない。
「なんで、2枚? 未来は?」
「私は、いっちゃダメなんだって。夜遅いし。だからそれは、2枚ともお兄ちゃんの。彼女でも誘って、行ってくれば?」
「彼女なんて、いねぇよ」
「嘘ばっかり。かわいい女の子と一緒に歩いてるの、見たことあるよ」
 ――女は、これだから侮れない。小学生といっても、女は女。
 カツカツ、という靴の音を思い出す。顔はかわいいかもしれないが、時生が得意でないタイプの女だ。
「誘ってあげなよ。じゃあ、ね。お兄ちゃん」
 ランドセルを片方の肩にかけ、満面の笑みで、未来は手を振っていた。

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